ゼルくんはピーターさんの大きな水槽で大切に飼われている熱帯魚、エンゼルフィッシュの男の子です。エンゼルフィッシュは不思議な形をしています。どうたいは円ばんのような形で口は三角形です。せびれとしりびれはとても長く、はらびれはまるで手のようです。色や模様の種類はたくさんありますが、ゼルくんは銀色で、茶色い大きな模様のある子です。ゼルくんにはたくさんのお友達がいます。一番仲が良いのは同じエンゼルフィッシュの女の子で、黄色いチビちゃんと少し乱暴ものの、しま模様のシマちゃんです。
ピーターさんの仕事の都合で、水槽の電気がつくのは毎日お昼の2時から夜の10時までです。さっき電気ついたところ、ゼルくんはねむそうな目をしながら、水草の間でぼーっとしていました。その時、シマちゃんが突然ゼルくんをつつきました。「なにするんだよ」ゼルくんはいいましたが、シマちゃんは面白がって何どかゼルくんをつつきました。そしてゼルくんはついに気を失ってしまったのです。
ここは広大なジャングルの中を流れるアマゾン川の中流の辺りです。ジャングルでは大きな木、小さな木、草草が茂り、様々な花が咲いています。赤や黄、青い鳥さんたちが飛んでいます。お猿さんたちは木から木へとジャンプしています。しめっぽい地面にはへびやとかげやかえるたちがいます。そして、川にはたくさんの葉っぱ落ち、赤茶色をしています。
ゼルくんはふと、目がさめました。すると、ここは水槽ではなく、流れからしてどうやら川のようです。目の前にエンゼルフィッシュがいました。
「アマゾン川にようこそ、ゼル。わたしが今から案内しましょう。」
ゼルくんはこのエンゼルフィッシュに会ったことはないのですが、お母さんから聞いたことのあるおばあさんのアリスさんだと思いました。そして、おばあさんはアマゾン川に住んでいたことも思い出しました。
「ここはアマゾン川なんだ。」
そしてアリスさんに言いました。
「おばあちゃん、こんにちは。アマゾン川を案内してください。よろしくお願いします。」
その時、チビちゃんとシマちゃんが、ふと、現れました。そしてシマちゃんは言いました。
「ゼルくん、さっきはごめんなさい。つついたりして。」
「シマちゃん、もういいんだよ。だって、今からアマゾン川をぼうけんできるんだよ。」
チビちゃんとシマちゃんは言いました。
「アリスさん、よろしくお願いします。」
「ゼル、チビ、シマそれでは行こう。」
アリスさんは川の上流のほうへ3匹の子魚をつれて泳いでいきました。川の流れはおだやかで、子魚たちも長いひれを器用に動かし泳いでいきます。ジャングルを流れる川の水ですが意外と冷たく感じます。時折、太陽が熱く水面を照らします。光が当たるところでは水草がびっしりと茂っていて、合間にはたくさんの熱帯魚たちがいます。ふと、そこから細長い体をしたペンシルフィッシュたちが現れ、ゼルくんたちに言いました。
「ようこそゼルくんたち。きみたちが来ることを楽しみにしていたんだ。ここではインターネットで何でもわかるんだよ。すいそうでの生活はどう?楽しいかい?」
水面でジャンプして虫を食べていたハチェットたちもそばによってきました。またたく間に青い体をきらきらさせながらネオンテトラの群が集まってきました。熱帯魚たちはゼルくんたちに興味しんしんのようです。ゼルくんは緊張しながら言いました。
「ぼくたち、まだここにきたばかりなので、よくわからないんです。こんど会った時にいろいろとお話したいと思います。」と言い、すでに自分たちのことが知れ渡っていることにびっくりしました。
アマゾン川はいろいろな様相を見せてくれます。雨期と乾期があるため川底にはジャングルの木々が沈んでいます。ゼルくんたちは陸の植物は見たことがないため、はじめとても不思議に思いました。アリスさんの説明を聞いて、雨期には熱帯雨林がそのまま川に沈んでしまうことを知りました。
川底に沈んだ木のたもとでゼルくんたちは、水槽のお友達でエンゼルフィッシュの仲間アピストグラマの子供アピくんに出会いました。
「アピくん、どうしてここにいるの?」
「ゼルくん、チビちゃん、シマちゃん、こんにちは。いま起きたところなんだけど、なんだかびっくり。ここはどこ?夢?」
アリスさんはアピくんに言いました。
「アピくん、ここはアマゾン川よ。いっしょに行きましょう。」
そして、ゼルくんたちは泳ぎだしました。
途中、インターネットカフェがあったので一休みすることにしました。ネオンテトラの店員さんたちはゼルくんたちに会うなり、「ようこそ、ゼルくんご一行様、アマゾン川ネットカフェへ。きみたちはもう有名ですよ。アマゾン川で知らない熱帯魚はいないでしょう。サインぜめにあうかもしれませんよ。」
そしてさらにインターネットを見てみるとびっくり、トップの画面に「ようこそゼルくんご一行様」とのっています。ゼルくん、チビちゃん、シマちゃん、アピくんのそれぞれのボタンがあり、押してみると、こまかく紹介されています。シマちゃんは自分が「スカラレエンゼル」という種類であることを初めて知りました。この種類のエンゼルフィッシュはアマゾン川に住んでいるそうです。シマちゃんは自分のしんせきに会えるのかと思うと、おもわず、うれしくなり涙があふれてしまいました。ゼルくんはシマちゃんに話しかけました。
「シマちゃんよかったね。ぼくはおばあさんに会えたし、チビちゃんもだれかに会えるといいのにね。」
「ゼルくんいいのよ。わたしは今とってもワクワクするほどたのしいの。それではシマちゃんの仲間「スカラレエンゼル」をさがしにいきましょう。」
何どか、どうもうなピラニアにおそわれましたが、ゼルくんたちはそのつど、うまく木や水草にかくれました。しかし、とうとうエンゼルフィッシュほどの早さで泳げないアピくんがピラニアに追いつかれそうになってしまいました。
「だれか、助けてえっ。」アピくんは必死で逃げています。そのときです。円ばんの形をした熱帯魚のディスカスがピラニアのはらにたいあたり。怒ったピラニアはディスカスにおそいかかろうとしましたが、あっというまに泳いで行ってしまいました。
「アピくんはやくいこう。」「ディスカスさんありがとう。」みんなで言いました。
インターネットで調べたところ、コリドラスがスカレルエンゼルのお家を知っているそうです。コリドラスは小さななまずの仲間で、えさを捜すためにせわしなく川底を口でつついています。少しおくびょうなところもあるので、ゼルくんはやさしく聞きました。
「コリドラスさん、こんにちは。スカラレエンゼルさんたちをごぞんじですか。」
「知っているよ。ここから少し下ったアマゾン川のしりゅうのオリノコ川に入ってすぐのところにいるよ。」
「コリドラスさん、ありがとう。」というと、いちもくさんにオリノコ川をめざし泳ぎはじめました。
ようやくオリノコ川につくと、白と黒のもようがシマウマのがらのなまず、インペリアルゼブラプレコたちが出迎えてくれました。
「ようこそ、ゼルくんご一行。おまちしていました。」
シマちゃんはすぐに聞きました。
「スカラレエンゼルさんたちはどこにいるのですか。」
インペリアルゼブラの1匹が言いました。
「川がよごれてきたので、どこかにうつってしまったんです。人間が近くでジャングルをやき畑をつくり、住みついて、きたない水を川にながしたんです。実はぼくたちもここから出ようとしているところなのです。」
ゼルくんは思いつきました。飼い主のピーターさんにお願いして、川をきれいにしてもらおうと。それから、また、ここまで冒険してくれば良いのだと。
「インペリアルゼブラプレコさん、どうかここにいてください。ぼくたちは一度、水槽に戻り、人間に川をもとのようにきれいにしてもらうようにおねがいしてきます。」
熱帯魚は普通は目を閉じることができませんが、アリスさんは言いました。
「さあ、ゼル、チビ、シマ、アピ、目をとじて。だいじょうぶ。さあ、目をとじて。」
なんと4匹の子魚の目はピタット閉じていきました。それから、アリスさんは呪文を唱えました。
「ほーら、水槽にっ!」
ゆっくりと目を開くと、4匹の子魚は水槽に戻っていました。ゼルくんはピーターさんにお願いをして川をきれいにしてもらいました。
そして、みんなでこんどの日曜日にもう一度アマゾン川に冒険に行き、スカラレエンゼルに会うことに決めたのです。
続く
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